梅雨がある日本の風


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 20年以上前、私は、アメリカのカリフォルニアにいた。
 カリフォルニアの南端にある、サンディエゴという街だ。そこは、1年間に数回しか雨が降らないほど、乾いた土地だった。極度に湿度が低いため、空が宇宙まで見えるのではないかというほど青く、海もまた青かった。一年を通じて風が穏やかで、どんなに日差しが強くても、日陰に入ればすぐに涼しくなった。

 2年間の滞在が終わり日本に帰り、空港で飛行機を一歩降りた時、むっとした空気が私の顔にぶち当たった。それはまるで、水を含んだ壁のような空気だった。すぐにその空気に全身を覆われ、汗だくになった時、私は、「ああ、日本に帰ってきたのだ」と実感した。この梅雨という時期は、日本に特有の季節かもしれない。

 梅雨は、5月の爽やかな風と青空に満ちた幸福感を、一気に曇天と湿気に満ちた灰色の世界に突き落とす。洗濯物は乾かず、深呼吸する息は、水分に満ちている。しかし、この梅雨の重くのしかかるような圧迫感があるからこそ、梅雨が明けたとき、あれほど嬉しいのかもしれない。梅雨が明けた時に見る青空と入道雲は、格別なものがある。日本人は、昔から梅雨明けを待ち望んできた。

 しかし、そんな重苦しい梅雨にも、ひとつ素晴らしいものがある。それは、アジサイだ。色鮮やかなアジサイは、灰色に満ちた世界に、色づきを与えてくれる。青や紫、赤や、ピンク。この季節の全ての色が、アジサイの木に集約されてしまっているかのようだ。私は、この季節のアジサイほど、季節の色を表現しているものを知らない。

 アジサイは、日本原産という。いつだったか、アメリカのボストンの街を歩いていた時、店の軒先に鉢植えのアジサイが咲いていた。私は、ボストンの街でアジサイを見るという、アンバランスな体験に、しばらくそのアジサイに見とれていた。アジサイは私の日本の記憶と深くつながっているようだ。

 この湿気に富んだ空気と、重苦しい曇り空。そして、色鮮やかなアジサイが、どこにいてもこの日本という国を思い出させてくれる。

(K.NAKANO)